タイトル
私は蜃気楼を見に来ました。
その帰りの汽車の中で、
押絵を持つ魔術師のような
老人と出会いました。
「これでございますか」
老人は袋から見事な押絵を
取り出しました。

「まるで生きてるようでございましょう」

そう言うと老人は
「あなたは、聞いて下さいますか」
と昔話を始めたのでした。
あれは兄がまだ25の時でした
兄は夜な夜なふらふらと
出かけていくのでした
兄が向かった先は浅草12階でした。
兄は執拗に遠眼鏡を
覗き込んでおりました。
「なにをしているのですか」と
私が訪ねると兄は
「以前一目見たあの娘さんが
忘れられない」と言うのです。
「見つけた!」
兄はそう言って飛び出しました。
「あの娘さんはこの中にいるぞ」
それは八百屋お七の押絵でした。
「この遠眼鏡を逆さにして
私を見るのだ」
私が中をのぞくと、、
兄は押絵になり
幸せそうに微笑んでおりました。
私はずっと兄の入った押絵と
ともに旅をしているのです。


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