[はじめに]
リートベルト法に代表されるプロファイル解析では、実測粉末回折パターン全体に、
直接、非線形最小2乗法を適用します。実際に観測される粉末回折パターンでは、
格子定数に関係する回折強度、光学系、結晶子サイズ、格子ひずみ等に関係するプロファイルが、
様々な要因の影響で大なり小なり変動しています。試料調整、光学系、実験条件が適切でないと、実測パターンによくフィットしなくなります。
[結晶子サイズ1)]
線源がX線の場合、試料中に粗大な結晶粒が残存したり、結晶子サイズが不均一だと、
回折強度の再現性が低下し、一部の反射の強度が強調されたり、
極端な場合、回折線が分裂したりします。また、粉末中性子回折の場合、
用いる試料の量が多いので割と適当でも大丈夫であり、
固形にして測定する中性子回折の場合は結晶子サイズは全く気にしなくてもよいと言えます。
理想的な結晶子サイズは測定に使用する光学系の角度分解能に依存しますが、
通常、0.5〜数μm程度です。これくらい結晶子サイズが小さいと、選択配向2)はほとんど起こりません。
リートベルト解析用試料として結晶粒度が適切であるか否かは、
実際のX線回折装置で後述ω走査(ε走査)プロファイルを測定することにより、
あらかじめ調べておくべきです。また、回転試料台を用いて測定すれば、
回折強度に及ぼす粗大結晶の影響を抑制することができます。
[試料の粉砕方法]
回折強度測定に供する試料を粉砕・混合するのは、意外とむずかしいです。徹底的に粉砕しすぎると、
試料がメカノケミカルな変化を起こしやすく、中途半端な粉砕だと、粗大結晶が残留するおそれがあります。
試料の粉砕は、通常の乾式法では困難な場合が多いです。したがって、有機物質や一部の無機物質を除き、
エタノール、ヘキサン、アセトン等の有機溶剤に試料をしたしながら粉砕する湿式法を用いると良いです。
湿式法は、試料のメカノケミカルな変化を防ぐのにも有効です。十分粉砕したはずなのに、どうしても粗大粒子が残ったり
、選択配向が軽減されないときは、試料の合成条件を変えてみると良いです。
あまり粒成長しないような条件下で合成できれば、試料の粉砕に苦しまずに済みます。
選択配向や粗大粒子の効果がほとんど無視できる中性子回折を利用するのもひとつの手であると言えます。
後述の沈殿法は実践経験がなく、原研の坪田さんが広島大時代に作ったHPから引用しました。
[粉砕]
アルミナ乳鉢、メノウ乳鉢を用いて粉砕しようと考えたがアルミナやメノウが粉砕中削り取られ不純物として混入してしまう恐れがあり、
この手混ぜ方法では再現性に乏しく、さらに一般的にこの方法では10時間から20時間位粉砕に時間を要します。
そのため硬度の高いジルコニアポットとボールミルを使い遊星型ボールミルで粉砕を試みることを推奨します。
[沈殿]
無事粉砕した試料をアルコール沈殿法によって均一にする。
アルコールを入れかき混ぜ、ある時間(例えば30分)経ったらスポイトで上澄み液を別の容器に移します。この容器で更にかき混ぜ、ある時間(例えば1時間)経ったら別容器に移します。この容器中のアルコールを蒸発させれば、30分では沈まないが1時間以上では沈んでしまう粉末が得られます。必要に応じて更に上澄みをかき混ぜ・・・を繰り返します。
この手順で細かく、均一な試料が用意できるはずです。
[ω走査(ε走査)プロファイルによる回折強度測定用試料の評価]
粗大結晶の有無と選択配向の程度は、ω走査(ε走査)プロファイルの測定により容易に調べることができます。
ωスキャンでは、特定の反射(例えば最強反射)を対象とし、検出器の2θを回折角に固定し、
ブラック角θKを中心として試料のθ軸(ω軸)だけを走査して計数します。
この操作は、1つの反射のデバイ‐シュラー環に沿って検出器を動かし、
回折強度を収集することに相当します。
右図に示します。リング状に回折されている円周になぞって回折パターンをモニターしている状態です。
理想的な結晶子サイズを持つ均一な試料ならば、測定された強度プロファイルは滑らかとなります。しかし、粗大結晶が混入していると、それらはω走査(ε走査)プロファイル上に鋭い突起を与えます。これらの突起はデバイ‐シュラー環中に点在する斑点にほかならない。また、特定の方向に著しく選択配向している場合は、ある試料角度θ近くで急激に強度を増すようなプロファイルが観測されます。ただし、ω走査(ε走査)プロファイルは選択配向に対する感度はあまり高くないです。通常の集中法回折実験をω走査(ε走査)プロファイル測定実験の概念図と測定例を下図に示します。

ω走査(ε走査)プロファイル測定の概念

石英の101反射に対するω走査(ε走査)プロファイルの測定結果
参考文献:
「粉末X線解析の実際--リートベルト法入門」(ISBN4-254-14059-2(本体税込5,040円))
注釈
1) 結晶子とは一つ一つの微細単結晶のことを指します。これに対して粒子径(粒径)は結晶子の集まり(多結晶)
の径を指します。X線で求まるのは結晶子サイズであり、粒径ではありません。
2) 板状や針状の晶癖をしめす結晶では、微結晶が試料板に無秩序につめ込まれず、
X線で照射される体積の範囲内で結晶面方位に大なり小なりかたよりが生じる。この現象を選択配向と呼びます。