音読授業を創る   そのA面とB面と     06・3・15記





 「ありの行列」の音読授業をデザインする





●「ありの行列」(大滝哲也)の掲載教科書………………………光村3上




          
問題提示部分の文章分析


 冒頭の第一段落が、問題提示の文章部分です。
 本教材の 問題提示文(子ども用語、問題の文・質問の文・問いかけの文な
ど)は、「なぜ、ありの行列ができるのでしょうか。」です。ずばり、冒頭
からこの文章で書き出していいわけですが、本教材はそうは書かれてありま
せん。
  子ども達がふだん目にしている、ありが行列を組んで歩いている様子、
いつも目にしているありふれた事象から書き出しています。まず、ありの行
列の様子を書いて、その様子を想起させ、そこから問題提示文へと導いて
いっています。本論へすすむ前に、話のまくらを置いて、まず、ありの行列
を想起させ、ありの行列へと子どもの興味関心を向けさせ、そして問題提示
文へとつなげていっています。
  ずばりと問題提示文を書き出すよりは、やわらかい導入の書きあらわし
方にしています。まず、ありの行列へと子どもの興味関心を向けて、そこか
ら、「なぜ、ありの行列ができるのでしょうか。」と問いかけています。
  第一段落では、とても重要なセンテンスがあります。「ありは、ものが
よく見えません。」です。目が見えなければ、砂糖などのえさも見えない
し、前方を行くありたちの姿も見えないはずです。一列に並ぶきれいな行列
ができそうに見えません。それなのに、一列になって進むありたちの行列が
できるのです。ふしぎでしょう、と読者に問いかけているみたいですね。こ
の一文を読んで、不思議だなあと思うことが重要です。
  ありは、目が見えません。それなのに、行列は、なぜ、できるのでしょ
うか。ありたちは、何を頼りにして、一列の隊列を組むのでしょうか。子ど
も達にいろいろな予想を言わせてみましょう。どんな答えが発表されるで
しょうか。


       
問題提示部分の音読のしかた(1)


  次は、初歩的な音読のしかたでの誤り事項です。みなさんの学級児童達
の音読実態に次のようなことがみられませんか。もし、みられたら、まず音
読指導をこれらをなくす指導から開始していきましょう。へんなよみ癖、脱
字読み、正しくない発音発声の仕方の音読指導です。

へんな読み癖、脱字読み、正しくない発音発声の例
 ◎「夏になると、庭のすみなどで、」を「夏なると、庭にすみで」と、
  「に」、「など」をぬかして音読してしまう。
 ◎「庭」を「にや」または「にあ」と発音してしまう。
 ◎「よく見かけます。」を「よく見かけマアース。」とのばしてはねあげ
   て読んでしまう。
 ◎「行列、ギョウレツ」を「ギョレツ」と音読してしまう。
 ◎「その行列は、」の副助詞「は」を、Wをとって「あ」と読んでしま
   う。つまり「その行列あ、」と読んでしまう。
 ◎「ありの巣」の「す(巣)」を、「s(u)」(母音の無声化)でなく、
   「su」(母音の有声化)で読んでしまう。
 ◎「えさのあるところまで」を「えさのあるとこまで」と、「ろ」をぬか
   して読んでしまう。
 ◎「ずっとつづいています。」を「ずっとつづいてイマアース。」とのば
   してはねあげて読んでしまう。
 ◎「よく見えません。」を「よくメーマセン。」と読んでしまう。つま
   り、「みえません」の「mie」を「meー」と、二重母音を一音化の長
   音で読んでしまう。
 ◎「できるのでしょうか。」を「できるのでしょう。」と、「か」をぬか
   して読んでしまう。


       
問題提示部分の音読のしかた(2)


  第一段落は、意味内容で大きく二つに分かれています。
  一つは「夏になると、庭のすみなどで、ありの行列をよく見かけます。
その行列は、ありの巣から、えさのあるところまで、ずっとつづいていま
す。」です。
  もう一つは「ありは、ものがよく見えません。それなのに、なぜ、あり
の行列ができるのでしょうか。」です。

  前者部分は、二文があり、二文をひとつながりに、ひとまとまりに音声
表現します。事実を報告し、伝えているように、事実そのままに、淡々と、
相手に伝えるように読んでいきます。「夏になると、」が、起こし部分で
す。ここで軽く間をあけます。「夏になると、」どうなるかというと、こう
なります、という気持ちで・心積もりで読み進めていきます。あとはひとま
とまりにつなげて読み進めます。読み終わったら、そこで間をあけます。
  後者部分は、「ありは、ものがよく見えません。」で、ひとまとまりで
す。やや目立つように、高めの声立てで、ゆっくりと音声表現します。そこ
で軽く間をあけ、そして「それなのに、」の「そ」を高く強く読み出してい
きます。こうして意味内容が前を否定して、逆に接続していくとこを音声で
表します。「そ」を強めに読み出して「それなのに」を読み、「なぜ、あり
の行列ができるのでしょうか。」と、文末を質問・問いかけている音調にし
て音声表現していきます。


          
答え部分の文章分析


  説明文の書き方のパターンとして「問題の文→答えの文」というのが多
くみられます。「ありの行列」もその一例です。
  「ありの行列」の答えの文章部分の構成は次のようです。

(1)これらの問題を解決するため、ウイルソンは、つぎの実験と観察をし
   た。

(2)【はじめに】(実験1。ありの巣から離れたところに砂糖を置い
           た。)
         (観察1。あちたちの行動を観察し、記述してる。)

(3)【つぎに】(実験2。道筋に大きな石を置いて、行く手をさえぎっ
          た。)
        (観察2。ちりじりになったが、また行列ができた。)

(4)【これらのかんさつから】(これら二つの実験観察から、ウイルソン
          が考察したこと・分ったこと。道しるべになるものを
          つけているのではないか。)

(5)【そこで】(実験観察3。はたらきありの体の仕組みを調べた。)

(6)【この研究から】(結論・まとめ。ウイルソンは行列のできるわけが
            分った。)

  「ありの行列」を音声表現するとき、これら文章構成がとても重要で
す。これら文章構成の論運びが読み声に区切りとして、強弱のアクセントと
して明確に音声に表現されるように音読しなければなりません。



       
【はじめに】部分の音読のしかた


  【はじめに】部分の音声表現のしかたについて書きます。
  ここの文章部分は、ウイルソンがどんな実験(装置)をしたかについて
書いてあります。本論では、これを実験1としましょう。
  次に、その実験1に対してのありたちの行動の様子、つまり観察したこ
とが書いてあります。本論では、これを観察2としましょう。
  【はじめに】の終わり部分には、これら実験1と観察1とでウイルソン
が気づいたこと・考えたこと、つまりウイルソンが考察したことが書いてあ
ります。
  説明文の音読は、論運びがどのようであるか、説明の順序が、はっきり
と聞いている人に分りやすく伝わるように音声表現しなければなりません。
意味内容がごちゃごちゃしないように、論運び(意味内容)の区切りがはっ
きりと分るように、伝わるように音声表現しなければなりません。
  次の言葉に注目し、これら言葉を、やや強めに音読して目立たせます。
そして、これら言葉の前で軽く間をあけて読み、区切りをはっきりさせて読
みます。
  これら順序を示す言葉のあとは、これら言葉につながり、引きずられる
文+文のつながりとして、ひとつながりに・ひとまとまりになるように音声
表現していきます。
      はじめに、
      しばらくすると、
      やがて、
      すると、
      ふしぎなことに、



       
【つぎに】部分の音読のしかた


  次のような区切りとつながりをはっきりと音声にのせて読むようにしま
す。
  「この道しじに大きな石をおいて、ありの行く手をさえぎってもまし
た。」は、実験2のことです。はぎれよく、ゆっくりと読んでめだたせま
す。ここの下で軽く間をあけます。
  「すると、」部分を、やや早口で読み出します。「ちりじりになってし
まいました。」部分は、だんだんと声量を低めて、しだいにゆっくりとと読
み進めていきます。ここの下で間をたっぷりとあけます。
  「ようやく」から「まただんだんに、ありの行列ができていきまし
た。」までは、意味内容はひとつながりです。ここまでは、ひとまとまりに
音声表現します。「いっぴきのありが」「一ぴき二ひきと」「だんだんに」
は、しだいにありが増えていき行列ができていく様子を書き表している文章
です。とても重要な語句です。これらをやや目立たせて、強調して音声表現
してよいでしょう。だんだんに、しだいに増えていく様子が音声に表情とし
て表れるようにします。
  「目的地につくと」から「さとうのかたまりがなくなるまでつづきまし
た。」までは、巣に帰るありの行列のことを書いた部分ですから、これらは
ひとつながりにして読んでいきます。



   
【これらのかんさつから】部分の音読のしかた


  「これらのかんさつ」とは、実験1、観察1、実験2、観察2をさしま
す。ここの読解指導では「これら」の指示語の指導を忘れてはいけません。
  「ウイルソンは、………と考えました。」とのあいだにはさみこまれて
いる文は「はたらきありが、地面に何か道しるべになるものをつけておいた
のではないか、」です。こういうのを、「はさみこみ文」と呼びます。ここ
でウイルソンが考察した・考えた内容です。ここの文の場合は、内容から
いって、はさみこまれた部分を、声量を高めて、はぎれよく、ゆっくりと、
目立たせて音声表現するとよいでしょう。



      
【そこで】部分の音読のしかた


  「そこで、ウイルソンは、はたらきありの体の仕組みを、細かに研究し
てみました。」が、ひと区切りです。「体の仕組みを」(間)「細かに」
(間)「研究してみました。」と間をあけて強調して読むとよいでしょう。
  「すると、ありは、おしりの所から………じょうはつしやすいえきで
す。」までがひとまとまりです。ここの二文は、ひとつながりに音声表現し
ます。
  「とくべつのえき」「においのある」「じょうはつしやすいえき」など
は、強めに読んで強調するとよいでしょう。



     
「この研究から」部分の音読のしかた


  ここは、ウイルソンのこの研究の結論が書いてある文章部分です。
  もう一度、冒頭の課題提示文に戻って、「ありはものがよく見えませ
ん。それなのに、なぜ、ありの行列ができるのでしょう。」を確認し、それ
の解答部分がここの部分であること、どう結論づけられているかを確かめて
いく読解指導が重要です。冒頭に問題の文があって、それについての解答が
ここの文章部分であることを確認します結論に、どう書いて整理してあるか
を調べさせます。
  「この研究から、ウイルソンは、ありの行列のできるわけを知ることが
できました。」が、ひと区切りです。ゆっくりと、はぎれよく音声表現して
いきます。「ありの行列のできるわけを知ることができました。」を目立た
せて読むとよいでしょう。
  「はたらきありは、えさを見つけると、道しるべとして………えさが多
いほど、においが強くなります。」までが、ひと区切りです。この段落には
四文があります。すべて地面に液をつけて巣に帰るはたらきありのことが書
いてあります。四文それぞれに強めて読みたい語句があります。「えきをつ
けながら帰る」「においをかいで、においにそって歩く」「帰るとき、同じ
ように、えきを地面につけながら歩く」「えきが多いほど、においが強い」
などは、やや強めた読み方にして目立たせると意味内容が音声に出るでしょ
う。
  「このように」と、更なるまとめ言葉で、最後のまとめを述べていま
す。「このように」個所の一文は、ゆっくりと、淡々と、流すように音声表
現していってよいでしょう。とくべつに強調したりしなくてもよいでしょ
う。最後ですから、淡々と読み流していきます。
  いちばん最後の「このえきのにおいは、」からあとは、ありの種類に
よってにおいがそれぞれ違っており、道しるべのにおいが交わっても、道し
るべを間違うことがないという補説が書いてあります。
  ここの文章部分も、前の「このように」の段落個所と同じ音読のしかた
でよいでしょう。ゆっくりと、淡々と、読み流していってよいでしょう。



            
参考資料(1) 


  本教材「ありの行列」に関連する科学的知見として、すぐれた論稿があ
ります。関可明先生(執筆当時、東京・柳原小学校教諭)が書いた論文で
す。出典・児童言語研究会編集『国語の授業』(1977年・12月号。一
光社)の中の関可明論文。とても参考になりますので、以下、一部を抜粋引
用します。

ありの匂物質の発見の手がかり

  真夏の日ざしの下で、横たわっている昆虫をありが行列しておしかけ、
群がっている有様は、子ども心に不思議に思えたものです。
  ハーバード大学教授のウイルソンを中心とする学者グループは、ありが
行列していることに着目し、その解明にとりかかりました。その解明の手が
かりになったのは、ありが、体の大きさに似合わぬ外分泌線をもっているこ
とが分ったことでした。
  さらに、ウイルソンの研究に、大きなヒントを与えたのは、マイマイガ
の性誘因物質の発見でした。マイマイガの雌は、雄をひきよせる物質(フェ
ロモン)を分泌して、遠くにいる雄を誘い寄せているわけです。ありも匂物
質を出して仲間のありに知らせるのではないかと考え、フェロモンを抽出・
分離することに成功しました。
 ありは、餌を発見すると、インクを流しながらペンが動くように、尾端か
ら少量の分泌液を二〜三ミリメートル間隔に地面につけながら巣に帰るので
す。他の働きありはこの匂いの腺に触れると、濃度勾配に逆らって歩き始め
ます。
  この匂物質は揮発性の液体で、一匹の働きありによって出された匂は、
数分たつと限界濃度以下に下がってしまいます。しかし、後続のありも、餌
を運ぶときにこのフェロモンを分泌するので、餌の量が多いと、「匂のあ
と」も強くなるわけです。
  ありについての研究が進むにつれて、アリの目は、人間の目のように像
を結ばないということも分ってきました。

科学的自然観へ脱皮させる

  ありが餌を見つけると仲間のありが次々とおしよせてくることは子ども
達もよく知っています。しかし、どんなしくみによってありの行列ができる
のかということについての問題意識を持つ子は少ない。ありは、寓話のよう
に、冬の食物を蓄えるために、夏にせっせと餌を運んでいるんだという童話
的見方をしている子どもが多い。
  筆者は、「夏になると、庭のすみなどでありの行列をよく見かけま
す。」と書いて、子どもたちの経験を想起させておき、「ありの行列は、な
ぜできるのでしょうか。」と問題を投げかけています。
  漠然とした問題提起ではありますが、子どもの知的興味を喚起する書き
ぶりです。つづいて、筆者は読み手に理解の容易な二つの観察を提示し、あ
りの体の研究結果を読み手に示して、ありの行列のできる理由を説明してい
ます。
  この文章の展開は、興味本位の、知識羅列型の説明文教材と違ってユ
ニークで、子どもの科学的認識過程を重視しています。子どもの童話的、擬
人的自然観から科学的自然観へと発達させていく重要な契機となりうる教材
です。



           
参考資料(2)


 光村図書の編集部に、一教師から、この教材「ありの行列」について質問
があったそうです。「ウィルソンの実験と同じことを子どもたちにさせてみ
たが、アリの行列はできなかった。どうしてできないのか」という質問だそ
うです。
 そこで、光村図書編集部では京都工芸繊維大学教授で、アリの研究者の
岡亮平先生にお尋ねしたそうです。そのインタビュー記事が、光村図書発行
『小学校国語教育相談室・66号』に掲載されています。
 以下は、そのインタビュー記事のサワリ部分だけの抜粋引用です。


編集部 アリには種類によって行列を作るものと作らないものがあるのでし
    ょうか。

山岡 ええ、そうです。「ありの行列」でウィルソンが実験に使ったのはヒ
   アリだと思いますが、これは行列を作ります。しかし、ヒアリは日本
   にいません。日本にいるアリでも、クロヤマアリのように行列を作ら
   ないアリもいますが、クロクサアリやアミメアリなどは行列を作りま
   す。
編集部 実験をしたけれどもアリの行列ができなかったという話があるので
    すが、地域によって行列を作るアリがいない所もあるのでしょうか

山岡 いえ、そんなことはありません。沖縄から北海道まで全国でアリの行
   列は見られます。
編集部 それでは、子どもたちが実験をしたときにアリの行列ができなかっ
   たのはどうしてなのでしょう。

山岡 アリの行列の実験をするには、じつはいろいろな工夫が必要なのです。
   たとえば教科書には「ありの巣から少し離れたところに、ひとつまみ
   のさとうをおきました」とありますが、砂糖をそのまま置いても乾い
   ているとアリは反応しません。砂糖が水分を含んで少し溶けていると
   アリが近づいてくる。地面に落ちている飴が濡れているとアリがたか
   っているでしょう。あれと同じです。だから普通、実験では砂糖水を
   使います。それからもう一つ、土の上の実験は難しいのです。
編集部 どういうことですか。
山岡 わたしはよくアリが行列を作るのを子どもたちに見せるのですが、そ
   のとき道しるべフェロモンの抽出液を用意します。アリが行列を作る
   のは、道しるべとなるフェロモンの働きですからね。抽出液でフェロ
   モンの道を作るのですが、地面に引いてやってもすぐ土に吸収されて
   しまうのです。だから、実験では紙の上で行列を作らせます。ほかに
   も、アリが逃げられないようにするとか、実験ではいろいろな準備を
   します。教科書に書いてある情報だけをもとにして実験しても、うま
   くいかないこともあると思いますね。
編集部 正しく実験するためには、実際にはいろいろ工夫しなければならな
   いということですね。ところで、わたしは昔ほどアリの行列を見ない
   ような気がして、ウィルソンの実験の頃とはアリの生態が変わってし
   まったのかなとも思ったのですが。


山岡 そんなことはないですよ。今でもアリの行列は日本全国で見られます。
   大人になると視線が高くなるので、地面のことが目に入りづらくなる
   のでしょう。子どもの視線になれば、アリの行列は身近なものです。
   昔と変わりませんよ。



           トップページへ戻る