<乾 勇二さん 丹波市春日町上三井庄>
宴会に飽き農業始める
神戸市に勤める乾勇二さん(57)が、『神戸田舎クラブ』を職場の仲間たちと発足させたのは5年前。「高尚な目的があったわけじゃなく、みんなでワイワイ飲み食いする場所がほしかっただけです」
あの震災以来、乾さんたちは被災者のために公共施設を斡旋したり、生活再建を支援する業務を担当してきた。
「震災ショック後に、先の見えない仕事で達成感もなかった。ストレスを感じていたんですよ」と、同僚で親友の森幹彦さん(52)は、みんなの思いを代弁する。
山南・氷上・青垣・市島と一軒家の物件を探していくうちに、今の古民家を紹介された。
何しろ飲んべえばかりゆえ、夜分に近所迷惑にならない場所が条件だ。敷地は380坪、隣家とも離れているし、部屋数は5部屋で12人のメンバーは宿泊できる。敷金なし、月5万円の家賃は一人当り4000円余り、飲み屋で散財することを思えば決して高くはない。毎月一、二回、料理材料や酒を持ち込んでストレス解消の大宴会が恒例となった。初期目的は達成したが、やがて大宴会にも飽いてきた。「酒ばかり飲んでおれん。農業でもしようじゃないか。何も分からんし、手伝いから始めようや」
紹介されたのが、同町野上野で丹波牛を生産する山本昇治さん(75)。「手伝いはありがたいが、一年でケツを割ったりしたら町中に笑われるで」。開口一番、山本さんは笑顔でクギをさした。
牛の世話や飼料の草刈り、三町もある田圃の田植や刈り入れなど一年を通じて忙しい。春には野上野のれんげ祭りにも参加して、屋台の焼そばつくりに汗を流す。
「師匠の山本さんのおかげで農業の厳しさを知り、自然や田舎のほんとうの良さに気づかされた。田舎遊びと言われたらそれまでやけど春日町のスローライフはサイコー」
毎月一、二回ペースは相変わらず。ただ大きな変化は2003年4月、乾さんが家を買取ったこと。
「持主から家を売りたいので出ていってほしいと言われて。100万円ずつ出して買おうと相談したけど誰も手を挙げない。手放したくなかったので、ぼくが買ったわけです」
『神戸田舎クラブ』を発足する少し前、自動車事故で両脚骨折、二ヵ月入院した。裁判の結果、事故の保証金が入ってきた。「不幸中の幸い、そのお金がなかったら買えなかった。きっとこうなるように導いてくれたんでしょう。摂理を感じますよ」
去年の夏は庭に菜園を耕し、竹の縁台や露天風呂らしきものをつくり、「冬のオリオンザと露天風呂、オツなもんです」と野趣見を楽しんでいる。
リタイア後は定住するつもりだが、奥さんや子どもたちは望んでいないらしい。「まだ一人ではこの家に泊れない」という寂しがり屋。近くに物件探しを始めた仲間もいるが、数年後、クラブの行方はいかに?
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